Ruby Kaigi 2025 Matzキーノート感想

Ruby Kaigi 2025に参加してきました。

私自身Ruby Kaigiは今回2回目で初参加は2年前の松本市での開催でした。
当時に比べるとセッションで理解できる部分が増え、知り合いも増え、大変楽しい3日間を過ごしました。

セッションに関する感想も色々あるのですが、そちらは会社のブログにも書くので、ここではまつもとさんのキーノートを振り返り、感想を書いていきたいと思います。

Matz Keynote 2025

リバースアルファシンドローム

今年のRuby KaigiではAIに関するセッションがほとんどありませんでした。
なのであえてまつもとさんがAI時代のプログラミング言語について話をしてみようと考えたそうです。
話の冒頭ではアルファシンドローム(かわいがられた犬が自身を主人だと誤解すること)が紹介されました。
そして、リバースアルファシンドローム(逆アルファシンドローム)という現象が今後AIと人間の間に発生するのではないかという危険性を指摘されました。
どういうことかというと、初めは人間がAIの主人として命令しているが、AIには苦手な分野のタスクが存在します。そういったAIができないことを人間が請け負うようになり、いつのまにか人間がAIのできないことだけをやる、世話係のような存在になってしまうのではないか、ということでした。
本当は楽しく自分がやりたい作業をAIが効率よくできるからAIに渡して、やりたくないけどAIができないから仕方なく作業するような状況は望ましくないですね、という話です。
Rubyにとって最も重要なプログラミングの楽しさを失うような事にならないように、AIとの上手な付き合い方を考えないといけませんよ、というお話でした。

プログラミング言語とAI

AI時代において、プログラミング言語が持つべき特徴として簡潔さ、表現力、拡張性の三点をあげられました。
数式が発明されて数学が変革したように、プログラミングにおいても自然言語ではなく、専用の言語が必要であることは変わらないという話がされました。
また、十分に賢いAIであれば静的型付けも必要ないのではないか、という意見も出ました。

AI時代のRubyの位置づけ

簡潔で、表現力豊かで、拡張性の高い言語といえばRubyということで、AI時代においてもRubyが活躍する未来は十分あり得るのではないかという話がされました。
Ruby発展のために必要な要素として、質の高いデータ、ツール、パフォーマンスがあげられました。
AIが学習する質の高いコードサンプル(データ)については、OpenAIと現在Rubyを使っている企業が提携する動きがあるという話もありました。
RuboCopやSteepといった開発ツールの重要性は今後も変わらないとされ、AIを活用したツールの登場の可能性にも触れていました。 そして「生産性」には二つの側面が、「人間が楽して楽しく開発できる」という観点と「儲かるかどうか」という観点があるが、Rubyでは前者の価値観を大切にしたいと話されました。
また、今後もパフォーマンス向上への継続的な取り組みを行うことの重要性についもお話されました。

コミュニティの重要性

Rubyを進化させていくためには、データ、ツール、パフォーマンスの各領域で多くの作業が必要であると指摘されました。
しかし、オープンソース開発者には次のような課題があります。

  • 多くの開発者が「報われない感じ」を持っている
  • 「ありがとう」だけでは「お腹いっぱいにならない」という現実的な問題がある
  • 経済的支援の不足により、優秀な開発者がコミュニティから離れてしまうケースもある

このような状況を改善するため、開発者を一人にせず、コミュニティとして支え合うことの重要性を強調しました。
また、コミッターと客席との距離はそれほど大きくないという話もされました、
自分のやりたいことが見つかれば、簡単にこっちに来ることができる。Rubyコア以外にも、gem、フレームワーク、ドキュメントなど様々な形で貢献できるとも話され、コミュニティがRubyの力の源泉だと話されました。

Ruby 4.0

Ruby 30周年記念としてのバージョン4.0の可能性に触れました。
エイプリルフールにRuby 4.0がでるというポストをXでしていましたが、実現の可能性は高いようです。
Ruby 4.0では実験的なnamespace、JITの導入を予定しているということでした。

感想

リバースアルファシンドローム、とても面白いですね。
私はAI大好きなので現時点ではAIのお世話も全然苦に感じません。むしろAIのサポートをどれだけスマートにこなしてAIの持ち味を生かせるか、ということに興味を感じます。
また、十分に賢いAIがコーディングのほとんどを行う未来というものを結構信じています。AIが取りこぼす仕事すらなくなるんじゃないか、というくらいに。
その時私は「あんなこといいな、できたらいいな」とAIに言う係になるつもりなので、やっぱり主人の立場にいるつもりですが、それが実現するまでの間、過渡期には確かにAIのしもべになるのかも知れません。
Rubyの未来についても触れられていましたが、私もRubyは今後も発展、継続していく言語なんじゃないかと思います。
Rubyは学びやすく、コミュニティが活発で楽しいです。私自身がそうですが、Rubyに関わっていたいと思わせる力があります。
来年もRuby Kaigiに行きたい、Rubyの発展が楽しみ、こういう気持ちのユーザーがいる限り、Rubyは終わらないんじゃないかと思います。(「Rubyは終わった」って最近聞きませんね!)
まつもとさんの発言の中に「私たちがコミュニティです。私たちが力の源泉になります」というものがあり、会場にいる全ての人が(もちろん来れなかったRubyistも)Rubyの力になるという主旨の発言だったのですが、先日gemを公開した身としては胸が熱くなりました。

まとめ

この3日間のRuby Kaigiを通して、技術的な学びだけでなく、Rubyコミュニティの温かさと活力を改めて実感しました。
私もコミュニティの一員として、ささやかながらRubyの発展に貢献していきたい!と思いました。
余談ですが、キーノートのまつもとさんの登場がステージのせりあがりを利用していて、とても神々しく面白かったです。